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活動報告:2004年

第14回夏季研究集会
2004-07-23
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■2004年7月23日-24日 茨城県
(1)講演
「憲法と教育基本法が『改正』される?!〜私たちがなすべきこと」
西原 博史 早稲田大学
(2)パネルディスカッション
「子どもの権利条約を活かしたい─教育基本法改悪が目前に迫るなかで」
和田 真也 子どもの権利条約と教育基本法研究委員
今橋 盛勝 筑波大学大学院教授・茨城県国民教育研究所所長
菱山  里 つくば子どもと教育相談センター
嶺井 正也 教育総研代表(コーディネーター)
(3)分科会
「学びの論理と文化」
「子どもの権利条約と教育基本法」
「若年層の雇用問題と職業教育の在り方を考える」
●講演の内容は「教育と文化」38号に収録されていま

■パネルディスカッション
子どもの権利条約を活かしたい〜教育基本法改悪が迫るなかで〜
 
今回のパネルディスカッションは、国連・子どもの権利委員会が出した日本政府への第2回総括所見(勧告)では子どもの権利の確立が求められているのに、与党はこれとは逆行するような形で教育基本法改悪を進めようとしているという状況のなかでは、改めて子どもの権利条約を学校教育のなかで活かしていく必要があるのではないか、との問題意識に基づいて設定されもの。パネリストは、総研の「子どもの権利条約と教育基本法研究委員会」研究委員の一人和田真也さん(北海道の中学教員)、筑波大学教授で茨城県国民教育研究所所長の今橋盛勝さん、つくば市で子どもと教育相談センターにかかわっている菱山里さんの三人で、池田賢市(教育総研運営委員)がコーディネーターをつとめた。

菱山さんは、服装や頭髪などへの頭ごなしの注意が多すぎる、もっと子どもの意見も聞いて欲しいという2人の子どもさんの意見を代弁するとともに、中学校、高校の現場で、命令的な口調が飛びかい、子どもたちを傷つけるようなことが多いので、子どもの人間的尊厳を大事にして欲しい、と提起。和田さんは、菱山さんが指摘した学校の様子はまさに日本の学校の日常そのものになっている、こんな日常になっている現状を何とかしたいということで子どもたち自身に意思決定をゆだねる実践(生徒が悩み、考え、解決するやり方)に取り組んできた、その取り組みを進めている時に子どもの権利条約が批准され自分の実践のバックボーンになった、と報告。今橋さんは校則の見直しが一定程度すすんだ80年代の教育政策・行政の動きを総括しながら、茨城県で子どもの権利条約を広め、実践化してきた取り組みを紹介した。
参加者からの意見を交えての2時間はあっという間にすぎたが、たえず子どもの訴えかけるものに耳を傾け、子どもと大人の関係を見直すことが必要ではないか、ということが確認された2時間であった。


■講演
「憲法と教育基本法が「改正」される?!−私たちがなすべきこと」
講師:西原博史(早稲田大学教授)
 
お互いに学ぼうとする人間がいれば成り立つ教育という営みに権力が口出しするということに対して、適切ではないとする立場がある。確かにその通りであるが、では、なぜ、教育基本法が必要だったのか。

戦前においては、国家目的への従属を第一とし、子どもを道具と見ていた。これを克服し、天皇の権威によってではなく、国民の声によって教育を設定するには法律をつくらざるをえなかった。しかし、戦前の教育の克服は、〈価値原理の選択を天皇が行い、国民に押しつけたことが間違いだった〉という捉え方では達成できない。国家目的の内容がいいか悪いかではなく、〈国家目的のために子どもが道具になるということ自体が間違いだった〉と捉えなければならない。そして、現在、少数の天才をきちんと育てなければ日本は生き残れないという発想で、自己選択・自己責任の名の下に、エリートとノンエリートの分断が行われようとしている。他方で、この方向を支えるものとして、ノンエリートが反社会的にならないように「心の教育」が強化されている。

教育という行為は、必然的に思想・良心の中に入り込んでいくことになる。このことを自覚した上で、たとえば、君が代を歌うのか歌わないのかといったことを子どもたち自身が判断していける能力とそのような状況をつくっていかなければならない。そのためには、学校外部とのつながり、特に保護者への語りかけと問題の共有化が必要である。


■分科会
第1分科会:学びの論理と文化

学びの論理と文化研究委員会の最終報告『学びと教えの分裂をどう超えるか』について、参加委員から補足説明の後、論議した。
 
その論議の中で、参加者から次のような発言があった。
「子どもの人権を大事に考えてきた。それが学びの復権の大事な土台ではないか」(大阪)、「授業を飛び出す子がいたが、昆虫にくわしい子で、昆虫について気づいたことがその子の生きる力になったことがある。学びの質が現場に求められる課題ではないか」(大分)、「現場教職員が考え直す大事な提起をされた。具体的な現実と結びつけると、なるほどと思うところがある。教職員は、教科書からの教材研究はするが、現実からの研究は乏しい。学んだことをどう活用するか、その道筋をつくることも必要だ。報告は『つなぐ』ための手立ても示さないと、現場教職員に受け入れられないかも。就学前の生活からつなぐ実践が必要」 (福岡)、「学習以前の学習が問題。特にコミュニケーション能力の欠如がある。また身体性の問題があるが、戦前型の身体性から入る教育も増えている」(兵庫)、「教師は、教えることについては知っているが、自ら学ぶことには弱いのではないか」(山形)、など。

司会者から次のように要請して、締めくくった。
「自らの問いを持ち、その問いをくぐらせて自分の考えを持つことが肝心だが、その力が衰えているのではないか。この報告書に対しても現場教職員自身が、現場の抱えている問題や状況を問い、その問いをくぐらせて、肯定的にも批判的にも、何かを取り出してほしい」

第2分科会:子どもの権利条約と教育基本法
  子どもの権利条約が批准されてから10周年が経過した今日、子どもの権利条約は現場にどの程度浸透しているのか。そして教育基本法「改正」の動きが着々と進んでいる中、基本法を活かすことが、子どもの権利条約の具現化につながるのではないか。その様な課題を設定した「子どもの権利条約と教育基本法」分科会は、委員会の6名を含め48人の出席で開かれた。はじめに石井委員長より挨拶の後、7月に公表された中間報告の概要についての説明があった。この中で荒牧委員は、子どもの権利条約の理念について、特に権利学習の重要性を指摘した。次に梅田委員より、委員会が先の全国教研で実施したアンケート調査の結果について報告があり、和田委員からは、現場での取り組みに基づいて、子どもの権利条約を活かす教育実践についてリアリティーな報告と問題提起があった。また永井委員からは、子ども参加・権利保障の実践を進めている学校視察の報告があった。

会場の討論においては、現場において、様々な制約の中で条約の理念を実践していくための課題が浮かび上がった。

第3分科会:若年層の雇用問題と職業教育の在り方を考える
委員会幹事の池田賢一さんより、委員会の研究がどのように進んできたか報告があった。次に、委員長の市川昭午さんより報告書について説明があった。とりわけ、「はじめに」から5点の基本的認識がていねいに説明された。また、各章の内容が要約して紹介され、最後に提言(『教育総研年報2004』9〜11 ページ)にうつった。池田さんより、この提言が特徴であると補足がなされた。

討議では、「総合的な学習の時間」における職場体験など、中学・高校での進路指導ないし職業教育は有効なのかにまず話題が集中した。職場における就労体験の実施に関して、たくさんの学校の教員が経験を出し合った。受け入れ先を探す苦労、またそれを継続していくことがむずかしいこと、市外にしか適当な施設がなくて遠距離の交通費の捻出が県の予算の削減とともに困難になってきていること、また職場体験がその後の進路にあまり生かされないなどといった意見が交わされた。

もう一つの話題は、高校の職業教育の困難性について、高校で取得した資格は社会で役立つのか、企業が望むのは生徒の資格よりモラルや意欲ではないのか、個性や適性を伸ばして就職に結びつかない例の方が多いなどと、問題点がいくつも指摘された。まさに分科会のテーマ「若年層の雇用問題」がどのような「職業教育」で解決つくのか、あるいは「職業教育」では解決つかないのか、根本的な疑問で議論は尽きないようだった。
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