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活動報告:2006年

憲法違反の新教育基本法は即時に廃止を!
2006-12-15
本日、大勢の反対者が国会議事堂周辺につめかける中、政府提案の「新教育基本法」法案が可決された。

この新教育基本法は、教育を人権として保障した現行教育基本法を180度ひっくり返すもので、われわれを統制するものとなっている憲法違反の法律である。新教育基本法は、教育を国家が統制し、また、子ども・教職員・親そして市民の思想・良心の自由や表現の自由をおかすものである。

新教育基本法第16条は、「教育は、不当は支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきもの」とする。政府は、この点について、「国家が教育行政をやることについて不当な介入であるとの解釈は採っていない」といい、「不当な支配をする」主体について、「国会で決められた法律と違うことを特定のグループ、団体が行う場合」を言うと説明。現行教育基本法とは全く逆方向の法律である。

もともと、現行教育基本法は、戦前にあって国家が教育に介入して軍国主義教育になったことを反省して作られたもので、同法第10条は、教育と教育行政を分離し、教育行政への教育内容等への介入・支配を禁じることが主たる趣旨であり、第1項の「不当な支配」をする主体には教育行政が入ることがありうると考えられていた。

だからこそ第10条では1項と2項を対比させている。現行教育基本法では、不当な支配禁止の名宛人は国家である。旭川学力テスト最高裁判決(76年5月21日)でも「不当な支配」は「法令に基づく教育行政機関の行為にも適用される」としている。

新教育基本法では、「法律に基づけば」どのような教育内容・方法も可能であり、どのような制限も可能とされることになる。法律とは政党政治の下で多数決原理で制定されるものであるから、今後は教育内容・方法が多数決原理で決定されることになる

しかも、国会答弁では、単なる告示であって大綱的基準でしかない「学習指導要領」(前掲の最高裁判決)も第16条にいう「法律」に含まれることになる。とすれば、こうした「学習指導要領」と異なる考えを教えることは法律違反だとなる。

さらに、「他の法律」として、(国歌=「君が代」、国旗=「日の丸」と規定しただけの)国旗国歌法を挙げ、この強制を義務付ける「法律」とする旨の答弁を行っている。つまり、政治的原理で多数派が決めた教育内容や教育行政が決めた教育内容のみを教授することを可能とするのである。    

前記旭川学力テスト最高裁判決は、「国民全体の教育意思は、国会の法律制定で具体化されるものであるから、法律は、当然に、公教育における教育の内容及び方法についても包括的にこれを定めることができ、また、教育行政機関も、法律の授権に基づく限り、広くこれらの事項について決定権限を有する」という(当時の文部省)見解を、「極端で一方的」として排斥しているが、政府の新教育基本法第16条の趣旨説明は、ほぼそれと同じである。  

しかし、旭川学力テスト最高裁判決は同時に、「内面的価値に関する文化的な営みとして、党派的な政治的観念や利害によって支配されるべきでない教育にそのような政治的影響が深く入り込む危険があることを考えるときは、教育内容に対する右のごとき国家的介入についてはできるだけ抑制的であることが要請される」としている。最高裁判決のこうした論は、憲法第26条および第13条から組み立てたものである。

新教育基本法はこうした憲法論をクリアしないままに、国家が教育を統制し、国家の人材養成として教育を位置づけるものであり、憲法第13条と第26条に違反するものである。

さらに、新教育基本法第2条が教育の目標として掲げる「徳目」は、本来、多様性をもつ多義的な概念であって、(愛国心を)持つ、持たないも含め内心の自由にかかわるものであり、本来法の規制になじまない。にもかかわらず、これらが達成されるべき教育の目標として規定されることは、憲法第19条等精神的自由を侵害するものである。

それだけではない。徳目を一方的に子どもにうえつける教育活動がなされるとすれば、それは子どもの思想良心の形成の自由を奪うことになる。また、親の指導の尊重(社会権規約第13条2項、子どもの権利条約第5条、14条2項)をおかす。

既にそのことは現実に進んでいる。

これについて、東京地裁の2006年9月21日判決では、「人の内心領域の精神的活動は外部的行為と密接な関係を有するものであり、これを切り離して考えることは困難かつ不自然であり、入学式・卒業式等の式典において、国旗に向かって起立したくない、国歌を斉唱したくない、或いは国歌を伴奏したくないという思想、良心を持つ教職員にこれらの行為を命じることは、これらの思想、良心を有する者の自由権を侵害している」と教職員に対する強制においても、憲法 19条の思想・良心の自由をおかすものである、と判示している。

これが教育目標となる以上、教育を受ける側は徳目の習得を強制されることになり、憲法上の精神的自由権をおかされることになる。

政府は、この「東京地裁が判決を下しました君が代・日の丸の学習要領に対応する現場のああいう事件もあることですから、これは今回の法律改正案ではそのところは大変明確にしていただいた」と答弁している。これを言い換えれば、新教育基本法では、こうした思想・良心の自由を侵害することまでも行うことが想定されているのである。新教育基本法では、教育の目標に規定されるのみならず、「学校においては、教育の目標が達せられるよう、教育を受ける者の心身の発達に応じて、体系的な教育が組織的に行われなければならない」(新教育基本法第6条第2項)と二重に規定して、教育の対象になる子どもへの強制を強く図っているものである。

さらにこうした思想・良心の自由等精神的自由にかかわる教育目標は、学校だけでなく、家庭教育(10 条)・幼児期の教育(11条)・社会教育(12条)、そして「学校、家庭及び地域住民等の連携協力」(13条)などにも及ぶもので、社会全体に渡って精神的自由が侵害される事態になりかねない。あえて言えば、「ファッシズム体制」である。

新教育基本法は憲法違反の法律以外のなにものでもない。即刻廃止するよう強くここに要請する。
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