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活動報告:2007年

第29回教育文化フォーラム
2007-12-02
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テーマ:学力とは…~学力問題を語る~
日 時:2007年12月2日 10:00〜12:30
会 場:ラッセホール2F ローズサルーン
            神戸市中央区中山手通4-10-8
主 催:国民教育文化総合研究所(教育総研)
         :兵庫県教職員組合・兵庫教育文化研究所
         :兵庫高等学校教職員組合
後 援:平和・人権・民主主義の教育の危機に立ちあがる会

1 PISA2006の特別報告
     福田誠治(都留文科大学、教育総研運営委員)
2 パネルディスカッション
コーディネーター:桂 正孝(宝塚造形芸術大学)
報告:遠藤行博(西脇市立西脇小学校)
      :野口克海(園田学園女子大学)
      :福田誠治(都留文科大学)
      :松田智子(京都光華女子大学)


【報告】

悉皆の全国学力・学習状況調査は不要、なぜ削る総合学習の時間
「第29回教育文化フォーラム in ひょうご」で語られ、確認されたこと

  教育総研、兵庫教育文化研究所、兵庫県教職員組合、兵庫高等学校教職員組合4者の共催で、平和・人権・民主主義の教育の危機に立ち上がる会後援による「第28回教育文化フォーラム in ひょうご」は、「学力とは…〜学力問題を語る〜」というテーマのもと、300人近い参加者を得て開催され、充実した時間となった。
  まず教育総研運営委員の福田誠治さん(都留文科大学)がEI(教育インタナショナル)が作成した
  PISA2006のガイドを紹介するととともに、PISAが求めているものは何かについて触れ、日本の全国一斉学力調査の方法や作成問題にいて疑問を提示した。EIガイドについては、日本においてPISA 2003の結果に関するマスコミ報道が「学力低下」を煽ったことを批判的に紹介している部分を指摘した後、PISAは「義務教育修了近くにある生徒(15歳)が、社会への全面参加に十分参加するのに不可欠な知識・技能をどれくらい取得したかを評価する」ものであることに留意すべきであり、国ごとのランクづけに目を向けるのではなく、望ましい教育政策や教育条件整備を考える上でのデータとして使用することを求めているものであることを強調した。さらに、スペインのマスコミがすっぱ抜いた科学に関するデータを見ると、前回も1位だったフィンランドと全体で6位にある日本(前回は2位)とは大きく平均点が違っているが、どこに日本の子どもたちの学びに特徴があるのかをつかむことが肝心だとも指摘した。
  さらに全国学力調査に関しては77億円もの巨費を投じて実施されたのに、出てきた結果は、日頃教育活動をおこなっている教職員にとっては当たり前の結果であったし、10月24日なってようやく結果を学校や本人に返してもその結果に利用についてはほとんど無策であるという状態になっている。抽出調査で十分だったはずだ。ただし、B問題を出した点については、従来型の学力観を少しは変えようとする姿勢の現れではないか、という見方を示した。
  中学校や大阪府教育委員会での豊富な経験がある野口克海さん(園田学園女子大学)は、全国学力調査が懸念された通りに都道府県間のランキングとして報道されたことについて、ユーモアたっぷりに上位になった秋田県と下位になった大阪府を事例として論評した後、問題は学力のこぶラクダよりも、学習意欲の二極化や学びの質にあることを強調した。
  おなじく小学校での教員経験のある松田智子さん(京都光華大学)は、私たちは全国一斉学力調査を批判をするけれど、学校全体で問題を検討したり、実施の仕方について議論したことはあったのか、と問いかけた。当該の学年担任だけに任せていたのではないか、どんな問題が出たのかについて興味をもったりはしていないのではないか。長年、総合学習こそ子どもの学力形成に不可欠であるという立場で実践し、研究してきた観点からすると、結成は十分ではないけれど、今度の問題には評価できる部分が多く見られる。総合学習を活かして行く方向で、今回の結果を利用してもいいのではないか、と少し異なる視点からの問題提起があった。ただし、松田さんは、読む力と書く力があまりに重視されているので、厳しい状況の家庭的背景をもつ子どもには不利だと指摘した。
  小学校教員の遠藤行博さん(西脇小学校)は、特別支援学級の担任をしているので自分のクラスは参加していないが、テストを受けた6年生たちは疲れ切っていたし、結果の利用がまったく考えられていないのは問題だと指摘。遠藤さんはさらに、二人の里子の里親としての立場から、高校中退を学校から宣告され、高校側とやりあっている子どもの例を引き合いに出しながら、自己受容や肯定、所属意識がなくされてしまった子どもに学校は向き合う必要はないのか、その子たちにとっての学力とは何かを考えることはできないのか、と問題提起をした。
  福田さんも、旭川学テ判決で学力調査をやる場合には準備などしては意味がない、と判示しているが、あちこちでやられたようだ。そもそも、テストによって学力を向上させようという発想が問題だ。私たち自身が市販テストで評価しようとしていること自体を問い直すことも大切だと指摘した。
  その後、兵庫教育文化研究所・学力問題研究委員会がまとめた「4・24 全国学力・学習状況調査」実施アンケート報告がなされ、会場からの質問をうけて、まとめに入った。
  松田さんは「文部科学省のHPではランクづけはしない、総合学習と基礎・基本は対立してとらえてはいけない、と書いてある。その点はきちんと受けとめるべきであろう。中学校で総合的な学習の時間がないがしろにされがちな点に大きな問題を感じている。家庭の経済格差はすぐには解消できない以上、社会に出て負けない力を育てる必要があるのではないか」とまとめた。
  遠藤さんは、いろいろ問題をかかえこまされた子どもは自分の意見をきちんと相手に伝えることができないので、いろいろの行動をとる、だから、相手と前向きの関係づくりをするなかで自らの主張を声に出していう力をつけて欲しい、と強調した。
  野口さんは、会場からの質問に応えながら、「自己肯定感を子どもたちが持てるようにすることが基本。同時に、学力調査を批判するわりには自分の授業では一方的な授業をしていないか、を問う必要がある。」と辛口の投げかけをおこなった。
  コーディネーターの桂正孝さん(宝塚造形芸術大学)は、次のようにまとめられた。
  急速にグローバル化するポスト工業社会(知識社会)で社会的に自立する力(自律力・共生力)を中核とする学力を学校は育む必要があり、それは国語や算数・数学だけに限らずすべての教科に関わるものである。その本質は、学習権を「読み書きの権利であり、問い続け、深く考える権利であり、 想像し、創造する権利である」とした1985年のユネスコ学習権宣言に示されている。つまり、学力とは、読み書きし、問い考え、想像・創造する力といえよう。
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