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活動報告:2007年

社会総がかりで教育再生会議案の批判検討を!
2007-06-05
6月1日に出された教育再生会議の第二次報告「社会総がかりで教育再生を」は、日本の公教育を改革するどころかよりいっそう悪化させる内容に充ち満ちています。

みなさん、「社会総がかり」で徹底的に批判する必要がありそうです。教育総研としては、みなさんによる批判の一環としてより詳細な批判検討を早急に行いますが、きわめて問題が大きい点につき、みなさんに問題提起をし、みなさんが声を出してくれることを願っています。


1.小学生から大学・大学院生のみなさん、何かおかしいと思いませんか?!
第二次報告は「目指す人間像—子供たちに身につけて欲しい力—」の中で「全ての子供たちが、高い学力と規範意識を身につけ、知・情・意・体、すなわち、学力、情報、意欲、体力の調和の取れた徳のある人間に成長すること、一人ひとりが夢や希望を持ち、社会で自立して生きていくために必要な基礎的な力をしっかり身につけた人になることを望んでいます」としています。

しかし、「全ての子供たちが、高い学力と規範意識を身につけ」、「夢や希望を持ち、社会で自立して生きていく力を身につけ」たとして、出て行く先の社会はいったいどんな社会ですか。今の日本社会は、一握りの人間しか安定した仕事につけず、社会保障や社会保険も危うく、自己責任だけが求められる不安定な社会になっていませんか?

そんな社会をどうしていくのかにまったく言及せずに、それこそ言葉は「美しい」けれどむなしい教育改革案は無責任極まると思いませんか。

同報告の「I.学力向上にあらゆる手立てでとりくむ」の「提言1」で「授業時数10%増」を打ち出し、夏休みを短くし、朝や夕方の授業時間を増やし、土曜日授業を導入するとしています。この提言をどう思いますか? 何が「学力」なのか、それを向上させる要素は何なのかについて基本的で深い議論もなく、ただ時間だけ増やせばいいという発想はまったく貧困だと思いませんか? フィンランドの子どもたちの生活や学びと比べたら一目瞭然ですよね。

さて、教育再生会議は「Iの提言4」で、「様ざまな課題を抱える子供への対応や保護者との意思疎通の問題等が生じている場合」、「指導主事、法務教官(少年院や少年鑑別所の指導者のこと:引用者注)、大学教員、弁護士、臨床心理士・精神科医、福祉司、警察官(OB)など」専門家の入るチームを作って対処することも提言しています。

これを読むかぎり、問題はすべて子どもや保護者の側にあるという立場にたっているようですね。学校側の対応や姿勢、教育の在り方などに原因があり、子どもや保護者の権利が侵害されるような問題についてはまったく考えようとしていないのは明らかです。各地の「子どもの権利オンブズパーソン」の活動に学ぶ姿勢はありません。問題があると判断した子どもや保護者を押さえこもうとしているように見えます。

学力向上のためとして、全国学力調査や習熟度別指導の拡充、学校選択制の拡大なども提言していますが、これらももっとも大事な点を踏まえない、周辺的なことでしかないと思いませんか?

今の若者や子どもは規範意識がないから、「徳育を教科化」したり、高校では奉仕活動必修化することを「II.心と体—調和の取れた人間形成を目指す」のなかで提言しています。

政治家や大企業の幹部があれこれ不正をはたらいたり、規範意識のない行動をしたりしていることは、やはり、これまでの学校教育で道徳教育が不十分だったのでしょうね。これを強化すれば政治家や大企業幹部の不道徳、不法な行動もきっとなくなるのでしょうが、いま、みなさんの前で繰り広げている行動や言動は慎んでもらいたいですよね。

とはいえ、国が市民の道徳に口を出してよくなった事例は、どこの歴史をみても見あたらないことをどうして教育再生会議のみなさんは理解しようとしないのですかね、みなさん。

先にも触れましたが、「はじめに」の部分では「人格形成」とやらが教育において強調されています。しかし、大学・大学院に関する提言ではグローバル化に対応できる「人材の育成」がきわめて強調されています。確かに「教養教育」の充実をうたってはいますが、それは「知識基盤社会」に対応した人材の育成という観点に立って提言でしかありません。

大学生は大学院生が、ますます格差が拡大し、不安定な就労状況にある時代のなかで、自らの生き方を探りながら、学問や他者とふれあって人格形成を図っていくように支援するという発想はまったく見られません。社会の形成者でなく、社会への貢献だけが求められていると思いませんか。

「おかしいよ、この提言」という声を、ぜひ、あげて下さい。


2.教職員のみなさん、怒りを感じませんか?!
「I.学力向上にあらゆる手立てでとりくむ」の「提言3」では「教員の質を高める」ことと並んで「子供と向き合う時間を大幅に増やす」としています。子どもと向き合う時間の確保、いいですよね。願ったり叶ったりじゃありませんか。

しかし、具体的に提言しているのは「副校長や、主幹等の配置など、教職員の加配措置を講ずる」ことや「各種調査や提出書類の簡素化・軽減、複数の小・中学校の事務を共同実施する体制の整備、事務の外部委託、地域の人材の協力、教育現場のIT化を進める」です。

教職員のみなさん、これで果たして子どもと向き合う時間を大幅に確保できるなんでとうてい思えませんよね?子どもと直接にかかわる一般の教職員を増やさないで、学級定数を減らすこともなく、副校長や主幹を増やすという考え方に怒りを覚えませんか?

先にも指摘しましたが、第二次報告は授業時数を10%増して学力向上を図るといっていますよね。文部科学省が40年ぶりにおこなった教員の勤務実態調査では、毎日小学校で1時間47分、中学校で2時間7分の超過勤務になっていることが明らかになっています。定数の抜本的改善なくして、どうして子どもと向き合う時間を作れるのでしょうかね。

しかもです。「IV.『教育新時代』にふさわしい財政基盤の在り方」の「提言2」で「メリハリのある給与体系」を導入しようといっています。もちろん、それは教員評価制度とセットになっています。教職員の仕事のいきがいは、いうまでもなく子どもとのふれあいであり、子ども達の成長に寄り添えるところにあるのであって、給与格差の体系を昇っていくことではないですよね。

導入されようとしている教員免許の更新制などもあわせ考えてみると、教職員のみなさん、教え子に教職への道をすすめることができますか?

こんな本質的な対応を見失っているとしかいいようのない提言に怒りを感じませんか?

怒りを全国からあげてみませんか。


3.保護者のみなさん、これではやってられないですよね。
子どもたちが懸命に努力して学力をあげても、入って行く社会が不安定で不確かになっている現状では、子育ての将来的な不安をぬぐい去ることはできないのではありませんか。第二次報告では「幼児教育の将来の無償化」ついて検討するなどと言っていますが、一人の子どもを高校あるいは大学を卒業させるまで、教育再生会議のメンバーはどれくらいの経費がかかるかを知っているのでしょうか?その教育費についての手立てについてはほとんど触れていません。

しかも、一方では、学校を選択した方がいいといい、他方では地域ぐるみで子どもを育むことが大事だと言っています。矛盾していると思いませんか?学校が違えばなかなか保護者同士話し合ったり協力できなくなる現状を知らない人たちが提言しているのだから仕方がないかも知れませんが、あまりにお粗末ではありませんか。

「全ての子供一人ひとりに応じた教育」のなかで、特別支援教育についてその充実を図る提言しています。しかし、障害のある子どもたちの教育は、インクルーシヴ教育(障害のない子どもとの共学)が原則であるとした2006年12月に国連で採択された障害者権利条約に対応した手立てについてはまったく触れていません。地域の通常の学校・学級で学ばせたいという保護者の願いに応える内容にはなっていません。これもおかしいと思いませんか?

保護者のみなさん、もっと政府や文部科学省、教育委員会に意見をぶつけてみませんか。

最後にこれだけは言っておきたいことがあります。

第二次報告は「はじめに」の「公教育再生のねらい」の部分で「教育界への信頼を保つこと」を重視すると述べています。しかし、報告を読めばよむほど、「教育界を信頼しない」という前提にたって作成されたものと言わざるをえません。

みなさん、あまりに問題の多い教育再生会議に対し、総がかりで批判をしていきましょう。
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