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活動報告:2008年

「小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領の改訂に伴う移行措置案」について
2008-05-14
今回の学習指導要領改訂は多くの重大な問題がある。それにもかかわらず、文部科学省は、この改訂学習指導要領を先行実施し、その移行を急いでいる。しかも、文部科学省が4月24日に発表した「移行措置案」自体、以下のような問題が存在している。

  まず、「総則や道徳等は直ちに先行実施」としているが、これは「改正」教育基本法の実質化であるし、「算数・数学及び理科は教材を整備して先行実施」するとしているのは、PISA(OECDが実施する国際的な学力調査)などへの対策という側面がある。
  子どもたちの学習の現状を出発点とするのではく、国内政治や国際的対面を優先させるかのような内容には、大きな疑問を持たざるを得ない。

「移行措置案」の第二の問題は、「現在の教科書には記載がない事項を指導する際に必要となる教材については、国の責任において作成・配布する」としている点である。

  補助教材とはいえ、それを国が作成するという限り、"国定教材"すなわち選択余地のない単一の教材となる。しかも、「教科書に記載がない事項」に関わる教材である以上、教科書的な重みを持つことにもなる。今日の教科書検定制度の下においてすら、複数の教科書からの選択が可能であるという事実からしても、大きな問題がある。
  補助教材の作成や選定は、子どもの学習や地域の実態に即し、現場の教職員の責任で行うべきであり、教職員の創意工夫を保障するためにも、人的・財政的な手立てが必要である。

  第三の問題としては、学校の判断で先行実施するとされる「外国語活動」と総合的な学習の時間との関係がある。「外国語活動」には、「各学年で週1コマまでは、総合的な学習の時間の授業時数を充てることが可能」とされているが、これでは総合的な学習の時間の削減ということに他ならないのではないか。そもそも、教科横断的な学びを通して豊かな学力を身につけるにために総合学習は大きな効果を持っており、現行の学習指導要領の要であった総合的な学習の時間が今回の改訂で削減したこと自体に大きな疑問を感じるが、「外国語活動」の実施をこのような形で前倒し実施するのは、総合的な学習の時間をいずれは廃止する方向性を示したとの疑念を抱かざるを得ない。

  なお、第二の問題点とも関連し、「外国語活動」の先行実施をにらんで文部科学省は、小学校高学年用の「英語ノート」を作成したが、これも"国定教材"づくりの一環であることも見逃せない問題である。

  第四の問題として、「総則や道徳等は直ちに先行実施」としている点がある。これは、今回の学習指導要領改訂の大きな特徴の一つである「道徳教育の重視」に対応するものであるが、直ちに先行実施するのであれば、いわゆる「道徳教育推進教師」も同時に置かれることになる。これは、道徳の教科化につながりかねず、強い懸念を抱かざるを得ない。

  最後に、先行実施にかかわる条件整備においては、補助教材を国が作成すること以外には財政措置が見られない。
  条件整備がないままに「移行措置」が実施された場合、教職員数が増えないまま、小学校では授業時間が週1時間増え、ただでさえ時間に追われている学校現場を、いっそう多忙化させることにしかならない。また、理科の授業で実験を重視するように改めたとしても、実験のための器具や設備が不十分なままでは、授業の質の向上は望めない。

  「移行措置」以前に、教職員定数の改善などの条件整備が不可欠であることを、ここに改めて強調しておきたい。

教育総研
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