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活動報告:2009年

第31回教育文化フォーラム
2009-01-07
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第31回教育文化フォーラムin青森
 

日時:2008年12月20日(土)14:00~17:20
会場:柏ふるさと交流センター
         つがる市柏広須松元102‐1
主催:日教組青森教職員組合、国民教育文化総合研究所
後援:子どもと教育を考える県民会議、青森平和推進労働組合会議、北地方教育会館

 

1 講演
    「土俵の学校 ~夢は必ずかなう~」 舞の海秀平さん

 

2 鼎談
     舞の海秀平さん、わんぱくずもうの長谷川さん親子

 

3 シンポジウム
   「全国学力テストで舞の海関は育つか?」

 

  シンポジスト: 嶺井正也(専修大学教授)
                            森澤範子(龍谷大学非常勤講師)
                            藤田冬芽(日教組青森教職員組合)
                            安保和雄(中泊町立小泊小学校教諭)

      コーディネーター:石井小夜子(弁護士)

  2008年12月20日(土)、今年度2つ目の教育文化フォーラム(第31回)が青森県つがる 市にて開催された。何かと忙しい年末そして悪天候だったにもかかわらず、小規模ながら予想を超える多くの方が会場に足を運んで下さった。第一部が舞の海秀 平さんによる講演、そして第二部が「全国学力テストで舞の海関は育つか?」と題したシンポジウムの二部構成で行われた。

 

「来て下さった方々が『来て良かった』と思えるような話をしようと燃えています」という最初の言葉どおり、第一部の舞の海さんは一時間の講演時間を いっぱいに使って、山形での高校教師内定が決まっていたにもかかわらず相撲界に入ることを決意するに至った経緯、その後新弟子検査基準(当時)の身長に足 りなかったため一度は落とされ、それでもあきらめずに頭にシリコンを入れる手術をしてまで合格した話、神事・文化としての相撲の歴史や意味、そして機械で はない人間同士が肌でぶつかり合うからこそ、そこに生まれる微妙な力士の心の動きなど、舞の海さんならではの語りで聴衆を惹き込んだ。

 

  『夢』が一つの大きなテーマだった今回の教育文化フォーラム。舞の海さんが決して恵まれた条件が揃わない中「力士になる」という夢をあきらめずに 追いかけ、そしてかなえることが出来た背景に、「最高の師匠」との出会いがあったと語った。謙虚さと潔さを学んだという出羽海親方は「弟子をやる気にさせ る」、そして何よりも自分に「相撲を教えてくれない」師匠だったと舞の海さんは表現した。「好きにやっていい」「お前だけは許す」。明らかに力士としては 体の小さい舞の海関(当時)のことを思い、初めはあきらめてくれることを願っていた出羽海親方も、新弟子検査に一度落とされてもあきらめない舞の海関の姿 にその覚悟を感じ取り、その後は彼の可能性に蓋をしないことで、良さが生かされ夢をかなえる道を絶たなかった。そんな最高の師匠の元で舞の海さんは、「土 俵は丸い」「どう有効に使うか?」「この白いキャンバスにどんな絵を描こうか?」「背は低くとも相撲の取り方はいろいろある!」そんな自らの発見とスタイ ルを得ていくことが出来たと語った。

 

第一部後半には、舞の海さんの中学時代の後輩にあたる長谷川さんが二人の息子たちと共に舞台に登場。舞の海さんを交えての鼎談では、中学、高校時代 を振り返り、いかに相撲が地元の歴史、祭り、文化の一部であったかが語られた。「地元文化の一部」として出会ったからこそ相撲をやりたいと思ったと話す舞 の海さんに呼応するように、長谷川さんも、祝勝会や反省会などに見知らぬ地元の人が気軽に参加し、そして声をかけてくれたこと、つまり相撲は、地元コミュ ニティと繋がれる一つの貴重な機会だったと感謝を込めて語った。鼎談の最後には、この青森の地で今まさに相撲の稽古に励んでいる長谷川兄弟から舞の海さん に質問がなされ、そして舞の海さんからは「あきらめずに続けていくこと」「行き詰った時にこそ、人は必ず一日一日成長している、変わっていっているという ことを信じること」という熱いメッセージが送られた。

 

 『夢』をもち、あきらめずに成長を重ねることが出来た舞の海さんの講演や長谷川さん親子との鼎談を受けて、第二部のシンポジウムでは様々な立場の四 名のシンポジストが、「全国学力テストで舞の海関は育つか?」をテーマにそれぞれの経験と視点を会場に向けて伝えた。教育総研副所長の石井小夜子さんコー ディネートの元、最初は藤田冬芽さん(日教組青森教職員組合)が発言。現代の子どもたちが『夢』を持てていないように感じるものの、当然強制できるもので もなく、では『夢』を持てる気持ちを育むために教育は何をするべきなのか?相撲の楽しさについて「勝つからうれしい」と語った第一部鼎談長谷川家の子ども たちの言葉を受けて、つまり「達成感」を持たせることの出来る環境作りが大切なのだろうと、藤田さんは語った。何かが出来たことを認め、そして祝福する。 そういった、子どもたちが「達成感」を感じられる機会が現在主に部活動の時間のみに限られているという現状を指摘し、授業の中で達成感を共有できる場を 作っていくことが今必要であると訴えた。

 

次に教育総研所長でもある嶺井正也さんからは、現在大学教員として若者たちと関わる者として、またかつての「全国学力テスト第一号」の一人として、 さらには三人の子育てを経験した親として、発言がなされた。今の社会は若者たちに『夢』を持たせることができていないという実感から、「学力向上」と迫る 前に、若者を温かく迎えて支えられる、若者に夢を持たせられる社会に変わることの方が「生きる力」を育む意味において重要であると述べた。また自身の経験 を振り返り、学校での「勉強」で力をつけてきたというよりも、むしろ社会の問題に触れ、人との関わりの中で学ぶ意味を自分で考え、そして人に支えられ人と 繋がって生きてきた、ちょうど第一部の舞の海さんや長谷川さんが相撲を通じた地域との繋がりから力を得たと話されたように、同様の実感が自分の中にあるこ とを述べ、さらにそれを土台として、比較競争の目的が濃く、日々の学びを支えるという視点を見失った学力テストで人は育たない、という自身の考えを語っ た。

 

次に発言したシンポジストは、兵庫県川西市で子ども人権オンブズパーソンとして子どもたちと向き合っている森澤範子さん。「できる/できない」で見 られる・分けられる、そんな環境で追い詰められ、自分の存在価値を否定するようなメッセージを送り続ける社会の中でありのままの自分で良いのだと思えずに いる子どもたち。そんな子どもたちとの8年の経験から、狭い指標で子どもの「出来/不出来」を評価することを止め、子どもの話に耳を傾け、主役としての子 どもをサポートする大人の役割の重要性が切実に伝えられた。

 

四人目のシンポジストは地元青森の小学校で教員をつとめる安保和雄さん。学力テストをやるとなったら自分のクラスの子どもたちに良い点をとってもら いたいと思ってしまうのが現場の人間が置かれた現実。さらに、もし結果が悪かったら自分の責任も問われるのか・・・そんなプレッシャーと恐怖感すら抱かせ られたと言う安保さんは、学力テストによって切り詰められる貴重な日々の時間を懸念した。普段先生たちは日々の子どもたちとの関わりから多くの情報やデー タを集め、それを元に「今度はこうしよう」「この子にはああやってみよう」といった工夫を生み出していると安保さんは言う。そんな工夫のための時間が、 「テスト練習」や「テストのための授業」で奪われてしまう、そんな懸念だった。その後会場からも、学力テストの結果と、学びに対する子どもたちの意欲の高 さとの間に大きな開きがあることを指摘した統計データを元に、「学力向上」が、必ずしも「学び」や「生きる」ことそのものの楽しさや意味の実感に繋がって いない、と指摘する声が上がった。

 

最後にコーディネーターの石井さんよりポイントを絞った質問が各パネリストに出され、「子どもを新発見できる時間をもっと持てれば」「子どもも楽し く、大人も楽しくなれる」、そして子どもたちの夢と可能性の芽を摘まない学びの実践が拓ける、現職安保さんのそんな言葉が再び会場に向けて発せられ、閉会 となった。
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