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活動報告:2010年

教育インターナショナル「リサーチネットワーク会議 報告
2010-07-01
開催:2010年6月14-15日
場所:ソンホテル・ブリュッセルシティセンター/ベルギー

議事次第
(1) EIの主要研究活動についての報告
(2) 経済危機後の教育:次には何が? (教育における経済危機の影響について)
(3) 教員のリーダーシップ
(4) 新しいとりくみ方法:大学や研究所との協力
(5) 教職員の労働条件-国際比較研究 (総研)
(6) EIとPISA:建設的な批判から批判的な参加へ
(7) 教育改革における労働組合の役割:教員の成果(パフォーマンス)と効果(エフェクテイヴネス)
(8) 新しいプロジェクトの始動
(9) まとめと今後のとりくみについて

内容
(1) EIの主要研究活動についての報告
① 調査研究:「教え方の学習:アフリカ・サハラ以南における無資格小学校教員の昇格」
② 調査研究:「OECD諸国における難民や亡命者の子どもたちのための教育機会」
③ 教育における国際経済危機の影響に関する追跡調査
④ 2010-2011年調査研究:中国の教育
⑤ PISA(生徒の学習到達度調査)
⑥ TALIS(教員・教授・学習に関する調査)
⑦ CEART(ILO/ユネスコ教職員勧告適用合同専門委員会)に対するEI報告
⑧ 技術報告:矯正施設での教育
⑨ 報告:幼児教育
⑩ EI記録:EFA(万人のための教育)国際モニタリング調査報告2010
⑪ 調査プロジェクト:中欧及び東欧における国際経済危機の影響を算定する
⑫ 調査プロジェクト:福祉としての教育-ヨーロッパにおける社会的弱者である若者への機会を向上させる
⑬ 調査研究:「公平性の問題」
⑭ 調査プロジェクト:アムステルダム大学との共同研究(教育改革、教育と国際経済危機)
⑮ プロジェクト提案:2010年人文社会科学でのEU FP7(欧州連合第7次研究枠組み計画)の要請
⑯ プロジェクト提案:法人税と質の高い公共サービス

(2) 経済危機後の教育:次には何が? (教育における経済危機の影響について)
2008年末の国際経済危機からEIは教育における影響を追跡調査してきた。教育予算あるいは教員の賃金労働条件はどのような影響があるか、組合はどのような対応をし、今後どのような計画があるのか等について調査した。
外国資本に頼る小国では金融危機の影響が強く、東欧などでは、公費が削減され、教育部門でも賃金引き下げ、新規雇用凍結などが行われている。アイルランドとアイスランドを除き、西欧諸国では比較的影響は少ない。フランス、ドイツ、イギリスでは公共投資のための公債を増やし、教育投資を増やすことを通知している。他の国においても、政府は教育を復興戦略に位置づけて投資しており、例えば、ノルウェーやスウェーデンは高等教育へ投資を行った。北アメリカも西欧と似たような状況で、(地方分権型の)アメリカ合衆国は、教育への投資を含めた景気刺激策を逸早く打ち立てたが、多くの州は歳入不足により教育予算の削減や一時解雇を行っている。カナダの教職員組合は、教育予算削減により、一時解雇や学級規模の拡大、団体交渉への政府介入などが行われる可能性があることを懸念している。
全ての地域で、学校の統廃合、教科やカリキュラムの削減などが報告されているが、経済危機を直接的原因として行われているかは定かでない。しかし、削減される科目は、外国語やカウンセリングなどで、その設備には経費がかさむからだと考えられる。
EFA(万人のための教育)の達成は経済危機によってますます危ぶまれている。OECD加盟諸国の教職員組合は、自国の公共部門を保護するだけでなく、他国への支援の約束を保持するよう政府に働きかけることが重要である。
政府に公費削減の圧力がかかる中、教職員組合は、未来への投資として、継続した教育の公的投資を求めていく必要がある。

(3) 教員のリーダーシップ(ケンブリッジ大学教育学部の協同研究)
これまでの学校リーダーシップの研究では、教員の専門的自立性や自信の程度は協力協同の教職文化を築く学校のリーダー達の能力に拠るところが大きいことが分かった。これまでのリーダーというのは、一部の教員に責任をあたえるポストとされる傾向があった。あらゆる教員が力量向上させる能力としてのリーダーシップという概念はなく、組織の階層の中に位置づけられていた。多くの場面で教員の独創的で革新的な能力が認識されることはなく、未開発の状態にある。教職員組合にとっての優先課題は、組合員の自信、専門的知識、そして自己効果を高めることにある。このプロジェクトの目的は、教員がリーダーシップを発揮するためのサポート体制を開発して教員の専門職意識を高めることと、このプロジェクトが教育改革にどのように貢献することができるかを模索することにある。
EI加盟組織にアンケート調査を行った結果、有益な情報を得ることができた。教員がリーダーシップを発揮する訓練をし、方針に影響を与え、教育実践を形づくり、専門的知識を構築するためには、現在の学校内の環境や機会がどんなものであるかがもっと分かるようになった。この調査の重要一面として、他の学校やより広い地域と輪を広げていくことができる可能性を得られたことがあげられる。
この活動により、教員の専門職意識を開発し高める支援をする機会と戦略を広げることができた。

(4) 新しいとりくみ方法:大学や研究所との協力(アムステルダム大学との共同研究)
ここでは、イギリスのエクスター大学での「公平性の問題(Equity Matters)」について報告を受けた。
教育における公平性には2つの側面があり、ひとつは公平で公正であること。もうひとつは、インクルージョン(包括的)であること。公平性の問題に影響をもたらす要因として、グローバル化と多様性があげられる。
プロジェクトの目的:公教育制度において、「万人のための質の高い教育」を達成するために行われている公平政策の関係性をとらえる。
アンケート項目:①教職員組合は教育における公平性をどのように概念化しているか。②それらの概念は、実践や政策の中で、どのように運用されているか。③公平性の概念に関連して、教員にとってどのような問題があるか。④EIは、公平性に関する国際的な議論に対し、どのような貢献をすることができるか。
上記のアンケートはEI加盟組織を通じて行う。この研究結果を今後、EIの政策や活動の方向性に活かしていく。

(5) 教職員の労働条件-国際比較研究 (総研)
2007-2008年度に教育総研が日教組の委託研究として行った「教職員労働国際比較研究」の報告を行った。
イングランド、スコットランド、フィンランドと比較し、日本の教職員の労働時間は長く休憩時間がとても短いこと、授業準備をする時間が少なくペーパーワークが多くこと、帰宅時間が遅く休みが取りづらいこと、仕事量が多く自信が持てない状況にあることなどを、パワーポイントを用いながら説明した。
出された質問は次のとおり:この結果を発表したときの反響はどうであったのか。他の職業でも同じような状況にあるのか。この結果を受けて、団体交渉などのとりくみを行ったのかどうか。子どもたちはどのくらい学校で勉強しているのか。日本の教員はいつ専門性開発(研修など)を行っているのか。他
出された意見は次のとおり:きちんと休みをとらないといくら働いても効率的ではない。能力も発揮できないのではないか。労働組合としてワークライフバランスを考えた働き方をすすめていく必要があるのではないか。CEART勧告を用いたらどうか。他


(6) EIとPISA:建設的な批判から批判的な参加へ
2000年に初めて行われたPISA(生徒の学習到達度調査)は、2003年、2006年、2009年にも実施され、今年12月7日(火)に2009年度調査の結果が公表される。
EIのメディア分析(2008年)によると、PISA2006について、各国メディアは、40%が簡単にふれる程度で、29%がランキングを引用している。また、27%が教育改革を求め、3%がPISA調査の目的などを説明し、2%が低い結果に対する教員責任を追求している。こういった状況の中、EIはTUAC(労働組合諮問委員会)での意見反映につとめ、EI加盟組織と連携し、PISA調査結果が報告されるまえにコピーを入手し分析につとめている。また、PISAの政府会議にも参加している。
PISA調査に関し、EIは以下のことを提案する。
教員の参加 → 長期的なデータの活用 → 成績順位一覧の活用方法の改善
→公平性の促進に再注目 → 社会科学を含む教科の拡大 → 健全上のリスクの警告
PISA2009の主要項目は読解力である。また、GDP成長率、移民(難民)の子どもたち、ナショナルカリキュラムなどに関連づけて分先されている。
また、TALIS(教員・教授・学習に関する調査)の結果とPISA調査の結果とが関連付けられた議論がなされる懸念もあり、警戒している。
尚、12月7日(火)の公表に先立ち、EIより加盟組織へデータと分析が送られる。(12月3日を予定)また、公表の約3週間前のTUAC会議では、PISA2009に関する傾向や主要課題についての議論がなされる。

(7) 教育改革における労働組合の役割:教員の成果と効果
教員の成果と効果の評価方法に対する対応策について議論がなされた。
効率や効果というものは、教育に限らず、公共部門全般において、今日的要求となっている。しかし、教育分野において、その評価は難しく、単純に、子どもたちの成績(テストの結果)によって、全ての教育の成果が分かるものではなく、また、教員の評価は、子どもたちの学習に影響する全ての要因となるものではない。
教育の評価に関するOECDの最近の調査では次のような傾向が見られる。
① 教育の成果を計るものさしとして、PISAや類似の標準テストへ注目
② 客観的に数量化でき、計測できるような教授、過程
③ 教育の質を計る指標としての教員評価
こういったアプローチでは、質の高い教育というものを正しくとらえることはできず、教育政策に誤った形で参照される懸念がある。EIは、教育の質や効果について、公平で公正な評価をするための要素がどんなものであるかを明らかにするための独自調査研究を行う。そのため、加盟組織にアンケート調査を行った上で、現地視察を行う。また、PISA2009の統計的分析とTALISとの相互関係を調査する。

(8) 新しいプロジェクトの始動 (2010-2011)
・ 教育における効果に関する研究
・ PISAとTALISとの関連に関する机上研究
・ 「将来的な質の高い公共サービス」についての調査研究
・ 国際的な教員のリーダーシップに関する調査研究(ケンブリッジ大学と共同)
・ 南アジア及び東南アジアにおける無資格教員のための教育に関する研究
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