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「東日本大震災」による被災への支援を
2011-03-29
「東日本大震災」による被災への支援を
 
2011年3月29日

国民教育文化総合研究所
 
 2011 年3 月11 日に発生した東北地方太平洋沖を震源とするM9.0の大規模な地震と未曾有の津波は、一度に多くの人びとの命、地域のくらしを奪いました。そして、被災地では、今も救援活動、また生活を取り戻すための復旧・復興活動に不眠不休でとりくまれています。

私たちは、亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、まだ行方の知れない方々の一刻も早い発見を願っています。また、被災地域の避難所やご自宅で困難な生活をおくられていらっしゃる方々に心よりお見舞いを申し上げます。

さらに地震及び津波による福島第1原発の爆発と放射線漏れ・放射性物質の拡散という事態で生命を脅かされ屋内外避難し、今後の見通しがもてないまま、不安な生活を余儀なくされておられる方々のことを思うと心痛は極まりありません。

教育研究機関として活動している国民教育文化総合研究所(教育総研)は、この未曾有の大災害で犠牲になられた多くの子どもや教職員に哀悼の意をささげるとともに、避難所となった学校で多くの教職員が救援活動にあたられていることに敬意を表します。

教育総研はこれまで、平和・人権・環境を基調とし、地域と切り結ぶ教育の在り方を考え、提言してきました。その立場にたち、また阪神淡路大震災などでの経験に学びながら、教育総研は被災した子どもたちの心のケアにかかわる支援活動を行い、子どもたちの学習の場・教職員の働く場、そして防災拠点である学校の立て直しに最大限の支援ができるよう努めていく所存です。
「生徒の学習到達度調査(PISA)2009」の結果公表について
2010-12-07
  新しい観点から作り上げられたヨーロッパ仕様の国際学力調査PISAは、ようやくすべての問題が新規のものに取り替わり、今回で第2巡目に入った。ところが、世界にはテスト対策をとり始めた国があり、わが国もその一つである。テスト準備をする国の存在で、スキルを測定するTIMSS(国際数学・理科教育動向調査)とコンピテンシーを測定しようとするPISAの成績とが類似しつつあり(表1・2参照)、ランキングだけを見ればアジア諸国が上位を独占する勢いである。ヨーロッパが独自の学力観を確立して知のヨーロッパを構築しようとするPISAのもくろみが外れたと見るべきであろう。
  国際的な動向では、国家間の格差は縮まる傾向にあるが、国内格差は拡大しつつあるとOECDは分析している。PISA2009の特徴は、成績上位層の増減によって国の順位や得点が大きく左右されている点である。このことは、かなりの国にテスト準備教育が普及してPISA型テストに強い子どもたちが生み出されていることをうかがわせる(表3参照)。
  日本では、義務教育の成果が定着していない学力とみなされる成績下位層が少なくなり、このことは学校教育の成果と見なせるが、成績上位国に比べれば日本の「低学力」層の比率はまだ高く(表4参照)、さらに高校に進学していない者はこのデータから除外されていることを考えれば、いわゆる「底上げ」が日本にとって依然として大きな課題となっている。ちなみに、ヨーロッパ諸国では、教育制度の関係で義務教育期間にPISAを受験している。とりわけ、きめ細やかな指導で知られるフィンランドでは、今回この下位層が増えており、移民の増加などの原因が推測される。
  ただし、教育労働者の国際組織である「教育インターナショナル(EI)」は、強制的な補習など性急な「底上げ」という方法をとることについては反対しており、「学習困難な成績不振児に対してより過酷な教育方法がとられる恐れがあり、また教員に対するプレッシャーが強まることを懸念する」と表明している。学力向上には、子どもたちを競争させたり劣等感を植え付けたり自信をなくすような方法を避け、長期的に取り組む課題である。
  日本の推移を見ると、PISAとして新規に開発された「考える力」や「活用力」を測る問題によって一時的に学力低下したようにとらえられた(表5参照)。今回の調査では、読解力では改善が見られ、数学と科学についてはほぼ同じ成績となっている。現状を学力低下ととらえるかどうかよりも、今後日本が進むべき学力の質を問題にする必要がある。
  今回詳細に分析された読解力については、日本においては、勉学環境として「趣味で読書することはない」という項目が44.2%とPISA2000に比べて10.8%も減少したが、OECD平均の37.4%までは減っていない。また、「読書は、大好きな趣味の一つだ」が42.0%、「本の内容について人と話をするのが好きだ」が43.6%、「本屋や図書館に行くのは楽しい」が66.5%と、OECD平均のそれぞれ33.4、38.6、43.1に比べて高率であるが、実態と合っているかどうか疑問である。読む本の種類として「コミック(マンガ)」は、72.4%となっておりPISA2000に比べて11.5%減少したものの、OECD平均は24.3%であることを考えると、きわめて高率である。コンピュータや携帯によって「Eメールを読む」と答えた日本の子どもたちはOECD平均よりも高率である反面、「ネット上でチャットをする」「ネット上で討論会またはフォーラムに参加する」と答えた者はきわめて少数であり、日本の子どもたちの言語コミュニケーションが特定の狭い人間関係のなかで行われていることをうかがわせる。
  読解力について、日本でこの6年間にとられた対策は、フィンランド・メソッドやPISA型読解力指導というものであったが、形式的な問題解決学習や作文力養成を促すものになったり、量の拡大を図る画一的な読書活動の押しつけが目立っている。テスト準備教育よりは、一人ひとりの個人的な意志や生育歴に根ざしてことばの意味を深め、思考や想像力を広げ、創造力を培う教育を続けるべきである。このことについては、教育総研は詳しいレポートを作成中である。
  これまで4回行われたPISA調査によって、学校の授業という狭い範囲の対応ではなく学力向上には社会的・経済的・文化的な背景が大きく作用していることなど、成績と学習条件の関連性はある程度見えてきたが、どのような状態の子どもにはどのような教育を準備すべきかについてはまだ確たる因果関係は見えていない。「考える力」や「学び続ける力」、「活用力」を強調する調査であるがゆえに、テスト対策をすれば成績が上がるというような対処は避けるべきであろう。
 
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悉皆の全国学力・学習状況調査の中止を
2008-05-09
  文部科学省は2008年4月22日に行われた2008年度の「全国学力・学習状況調査」の結果を8月29日公表した。この結果と文部科学省の説明を見る限り、成果よりは問題が数多く生じている。昨年度の結果公表に際して教育総研は「全国一斉の悉皆調査は不要」とするコメント【PDF】を出したが、今回もほぼ同じ趣旨で「不要」と言わざるを得ない。その理由は以下の通りである。
  なお、教育総研としての詳しい分析は後日公表する予定である。

1.「学力向上」という蟻地獄    

  文部科学省の説明によれば、「20 年度調査は、19 年度と比べやや難しい内容となっており、各教科の平均正答率が低くなっているが、過去の調査と同一の問題の正答状況等を踏まえると、学力が低下しているとはいえない。」という。もちろん「学力が向上した」わけではないが、これは問題の難易度によって簡単に点数は操作できるということも意味している。

  2007年度調査以前から、全国各地で対策が講じられ、今年度になって一層それに拍車がかかっている現状からすると、「低下もしていないが、向上もしていない」という評価は非常にゆがんだ努力を現場に強いることになる。

  同じ程度の問題にすれば、「下がったか、上がったか」の比較はできる。しかし、難度をあげれば学力のレベルを「上げる」ことは容易ではない。なぜ、難度を上げたのか。
  一つには、なかなか上がらない学力のレベルを示すことで、学校や教育委員会といった現場を論難し、たえず尻を叩くことに狙いがあると疑わざるを得ない。学校は学力向上の努力がたりないと批判され、いっそうその対策を迫られる。
  二つには、前回はだんご状態にあったトップ層の点数に格差をつけ、子どもたちに競争意識をうえる、という意図も感じられる。

  来年も行うという調査で、また、難度をあげた問題が出されればどうなるか。学校は蟻地獄のなかでもがくだけであり、子どもたちは点数アップのための競争を強いられる。これでは 学校教育本来の役割が大いにゆがめられてしまう。

2.テストの成績アップのための対策学習

  全国各地で対策が講じられたという報道がなされている。テストの成績アップをめざした対策的な学習や指導が学校教育に蔓延すると、成績として数値化される学力だけに焦点があてられ、測定しにくい学力や調査の対象とならない教科(たとえば芸術系)学習は軽視される。さらに「総合的な学習の時間」や「特別活動」も軽視されていくことになる。

  また、教育委員会が事前対策を指示したところもある。いや、ほとんどの都道府県で事前対策が行われたともいわれている。学校教育における学習と指導が、さらに家庭での学習でさえもテスト対策に収れんされていく。これも学習や学校教育の本末転倒である。

  悉皆の学力調査を行っているイングランドで「テストのための指導」が広く蔓延し、「子どもたちの思考力や表現力、読書力など、学力の大切な部分の低下を招いている」との指摘もある(阿部菜穂子『イギリス「教育改革」の教訓』岩波ブックレット、2007年、25頁)。また、ケンブリッジ大学のグループの調査によると「美術、演劇、音楽、情報通信技術といった教科がおろそかにされ、昼休みとか放課後のクラブ活動で部分的に埋め合わされていく。これらの創造的活動にあてられる授業時間の減少は、教員自身の創造性のセンスの減少と一致していく」(福田誠治『全国学力テストとイギリス』アドバンテージサーバー、2007年)という。
  イングランドの失敗の教訓に学ぶ必要がある。

3.見逃せない問題

  2008年度の学力・学習状況調査の実施に際し、小学校では前年度に引き続き「株式会社ベネッセ」に、中学校では「株式会社内田洋行(株式会社教育測定研究所、前年度はNTT)」に業務委託をし、約60億円もの大金をつぎ込んだ。両者ともに教育に深くかかわる企業である。
  これらの企業は個々の学校のデータを含む全国の膨大なデータを国のお金で入手したことになる。このデータをもとに、企業としての経営戦略をたてるという、きわめて有利な状況が生み出されている。

  文部科学省が昨年度の調査結果の分析にために設置した「全国学力・学習状況調査の分析・活用の推進に関する専門家検討会議」が2008年8月7日に公表した結果によると、(1)規則正しい生活・学習習慣と学力との関係が比較的強いことが示唆される、(2)習熟度別・少人数指導が学力向上に効果があがる傾向がある、という。
  「習熟度別指導」の効果については別の評価もあるが、それ以外の結果分析に関しては各地で行われている各種の学力調査で明らかであり、約60億円をかけて全国を対象にした悉皆調査を行う必要などなかろう。

  むしろ、就学援助率などとのクロス分析結果を出していないことが大問題である。「なぜ規則正しい生活・学習習慣ができないのか」、「なぜ朝ごはんが食べられないのか」という点にまで踏み込んだ分析を行っていないことをも合わせ考えると、教員の指導方法や家庭での親の態度に問題を押しつける意図が感じられてならない。

  学校の置かれている地域の条件による「学力格差」があること、それは単なるテスト対策では克服できないことも判明している。これらの格差をどう克服していくかということに教育行政は全力を注ぐべきである。

  特定の企業に情報を集めるために全国学力調査を実施し多大な資金を出すよりも、それを中止し、とりあえずは少人数学習や、さらには30人以下学級のためにその経費を使うことが先決であろう。
 
                                           教育総研運営会議

 
「小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領の改訂に伴う移行措置案」について
2008-05-14
今回の学習指導要領改訂は多くの重大な問題がある。それにもかかわらず、文部科学省は、この改訂学習指導要領を先行実施し、その移行を急いでいる。しかも、文部科学省が4月24日に発表した「移行措置案」自体、以下のような問題が存在している。

  まず、「総則や道徳等は直ちに先行実施」としているが、これは「改正」教育基本法の実質化であるし、「算数・数学及び理科は教材を整備して先行実施」するとしているのは、PISA(OECDが実施する国際的な学力調査)などへの対策という側面がある。
  子どもたちの学習の現状を出発点とするのではく、国内政治や国際的対面を優先させるかのような内容には、大きな疑問を持たざるを得ない。

「移行措置案」の第二の問題は、「現在の教科書には記載がない事項を指導する際に必要となる教材については、国の責任において作成・配布する」としている点である。

  補助教材とはいえ、それを国が作成するという限り、"国定教材"すなわち選択余地のない単一の教材となる。しかも、「教科書に記載がない事項」に関わる教材である以上、教科書的な重みを持つことにもなる。今日の教科書検定制度の下においてすら、複数の教科書からの選択が可能であるという事実からしても、大きな問題がある。
  補助教材の作成や選定は、子どもの学習や地域の実態に即し、現場の教職員の責任で行うべきであり、教職員の創意工夫を保障するためにも、人的・財政的な手立てが必要である。

  第三の問題としては、学校の判断で先行実施するとされる「外国語活動」と総合的な学習の時間との関係がある。「外国語活動」には、「各学年で週1コマまでは、総合的な学習の時間の授業時数を充てることが可能」とされているが、これでは総合的な学習の時間の削減ということに他ならないのではないか。そもそも、教科横断的な学びを通して豊かな学力を身につけるにために総合学習は大きな効果を持っており、現行の学習指導要領の要であった総合的な学習の時間が今回の改訂で削減したこと自体に大きな疑問を感じるが、「外国語活動」の実施をこのような形で前倒し実施するのは、総合的な学習の時間をいずれは廃止する方向性を示したとの疑念を抱かざるを得ない。

  なお、第二の問題点とも関連し、「外国語活動」の先行実施をにらんで文部科学省は、小学校高学年用の「英語ノート」を作成したが、これも"国定教材"づくりの一環であることも見逃せない問題である。

  第四の問題として、「総則や道徳等は直ちに先行実施」としている点がある。これは、今回の学習指導要領改訂の大きな特徴の一つである「道徳教育の重視」に対応するものであるが、直ちに先行実施するのであれば、いわゆる「道徳教育推進教師」も同時に置かれることになる。これは、道徳の教科化につながりかねず、強い懸念を抱かざるを得ない。

  最後に、先行実施にかかわる条件整備においては、補助教材を国が作成すること以外には財政措置が見られない。
  条件整備がないままに「移行措置」が実施された場合、教職員数が増えないまま、小学校では授業時間が週1時間増え、ただでさえ時間に追われている学校現場を、いっそう多忙化させることにしかならない。また、理科の授業で実験を重視するように改めたとしても、実験のための器具や設備が不十分なままでは、授業の質の向上は望めない。

  「移行措置」以前に、教職員定数の改善などの条件整備が不可欠であることを、ここに改めて強調しておきたい。

教育総研
いわゆる「全国学力テスト」の結果公表について
2007-11-12
「全国学力・学習状況調査」いわゆる「全国学力テスト」の結果公表について
~全国一斉の悉皆調査は不要~

を発表しました。
 
 
「全国学力・学習状況調査」いわゆる「全国学力テスト」の結果公表について【PDF】
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