教育総研は、教育・文化や教育運動のあり方について幅広い研究を積み重ね、同時に学校現場の課題を意識しながら、今日的視点にたった政策提言を行っています。

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活動報告

 

活動報告:2010年

活動報告:2010年
 
第20回夏季研:シンポジウム
2010-09-01
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第20回教育総研夏季研究集会
シンポジウム「教育を中心とする持続可能な社会実現に向けて」

コーディネーター : 小川 正人 (放送大学)
パネリスト: 広田 照幸 (日本大学)
                    桜井 智恵子 (大阪大谷大学)
                    松浦 司 (中央大学)
                    岩澤 貴子 (小学校教員)
 
  最初に、小川正人さんよりシンポジウムの趣旨と課題が次のように述べられた。「この1年、子育て支援や教育の家計負担軽減で子ども手当、高校授業料無償などが実施されたが、経済困窮家庭への修学支援の課題や教育と福祉の関係再構成など多くの課題が残されている。現在、教育関係では35人学級に向けた予算編成に入ろうとしており、教員の資質能力向上では教員養成が中教審に諮問され審議がスタートしたばかりである。しかし、先の参議院選挙の結果により政治基盤が脆弱化し、財政支出の増加が見込まれる教育政策の進展が難しくなる可能性も懸念される。今後教育政策に関しては 野党の対応如何によっては政策展開が変わる可能性など不透明、流動性が高まっていることは否めない。」
  その後、設定されたテーマ毎に、教育総研に本年4月に設置された「教育行財政改革をすすめるための有識者会議」での検討内容などを簡単に説明し問題を整理したうえで、各パネラーからそれら課題への意見を10分以内で述べてもらった。


「子育て支援、子ども手当、高校授業料無償化などと関係する教育と福祉の費用負担の在り方」
◎ 子ども手当てが支給されたものの、依然として給食費の滞納、修学旅行費の未納が子どもたちの教育に影響している問題や、高校の授業料の無償化についても、塾に行ける子どもは高校進学の選択肢が広がっているももの、塾にも行けない子どもたちにとって多くの場合経済的に私学にも通えない実態がある。それをふまえ行政をすすめてほしい。
◎ 今の学校はバラバラになっている感じを受ける。時間に追われ教職員が子どもと向き合う時間が少なくなっており、ベテランの先生も保護者との対応に十分時間を割くことができず、その結果トラブルが生じ疲れている。今の学校の実情を考えると、憲法で定めている生きることの重要性、労働の在り方などを追求していかないと教育は良くならないのではないか。子ども手当も経済的効果のみが強調されているが、保護者の消費者意識を変えないと子育て支援にはつながらないのではないか。
◎ 今の日本の少子・高齢化社会の現状をふまえ日本の未来を考えたとき、教育について経済的側面から分析・追求することが必要ではないか。このままでは人口減少によって労働者数が減少し、高齢化により貯蓄率が低下して資本蓄積が妨げられる。そこで、教育投資を行うことによって生産性を高め、技術進歩率を向上させることが必要。教育投資の経済的効果は、社会にとって経済成長と人的資本の確保、個人にとって家計の教育費負担を軽減させ出生率向上にも役立つ。用途を決めない子ども手当より公教育の充実等により教育費を低くしたほうが出生率に影響を及ぼすと思う。
◎ 今の日本の財政状況は、教育にお金を、と主張しても900兆円にも上る財政赤字の中でなかなか現実化しない。「政治主導」も揺らぎ、これからは「伝統的な大きな政府ではなく、官僚制の病理を克服し、市場活力と共存できるような洗練された政策が必要」と指摘されてきたがそうなっていない。教育の世界も官僚制にならされており克服するには保護者と連携した新しい教職の「専門性」を考える必要がある。同時に多様な教育モデルを学習し、「多様な価値観を認める民主主義を使いこなせる市民」を育てるなど、教職員自身が自ら社会の価値の多元性に目を向ける知識人になってほしい。
◎ 子ども手当について文科省の副大臣は、福祉ではなく子どもの潜在性を生かすベーシックカムと言っているがあらためて議論する必要がある。教育と福祉の関係については「有識者会議」の中で見直し、再構築していくが財源措置をどうすべきかが大きな課題になる。日本の教育費は公費と私費を含めるとスウェーデンと同じような額になる。公費と私費の組み替えることによってどのような効果が生じるのか、それらも提起すべきである。
 
 
「教員免許更新制・教員養成」
◎ 教員の養成は多くの子どもたちや保護者とのつながり、教職員間による課題への対応や連携など同僚性によって教職員一人ひとりの器が大きくなってきた。そのことからも教職員は「学校現場」という関係性の中で育っていくが、今は学校での課題や悩みが「免許更新制」という自己責任に結びついているのではないか。
◎ 率直に言って教員の免許更新性のしくみは、「非正規職員」と同じようである。学校では新しい様々な課題に対応するための打ち合わせや研修が増え、それに追われている。多忙化の中で免許更新のための講習などを受けたが身につきにくい。大学院卒として6年間の教員養成期間が提起されているが、教員希望者が減少し教員不足の時代になるのではないか。学校は様々な環境で育って子どもがおり、時には想像できないような行動をする。教職員も多様な先生がいて、子どもとのコミュニケーションがとれるような教職員集団が必要だ。
◎ 90年代から多くの企業が人事労務管理として成果主義を取り入れてきた。それまでの日本の人事管理は一人の上司ですべてを決めるより多くの上司が多面的に見て評価するなどゆっくりとした評価制度が取り入れられてきた。成果主義はある条件をクリアすれば抜擢する人事を可能としてきたが、社員の不満が高まり失敗したケースが多い。教員の免許更新制もそれのみをクリアすれば、という教員を生み出しかねないので企業と同じ轍をふまないか心配している。
◎ 免許更新制は多くのも問題があることで共通理解に達しているが、社会・世間がどう思っているか。教育にとって何が妥当なのか。教員は5~6年も経験すれば問題意識や課題をかかえるようになり、学校現場だけの経験で対応するには限界がある。そうした時に大学院で専門的な知識や対応策などを学ぶことができるシステムを導入する、そうした方法であれば意義がある。
◎ 文科省は、教員養成についていろいろ意見を聞いており、今の段階で確固たる方針を意思統一していない。中にはかつての師範学校の再生をイメージしたり、教員が「学校現場で育つ」にはどう条件整備をすべきか、などの意見が出されているが、この問題は中教審で議論しているのでそれに影響を与えるような提言を発することが重要である。

  こうした意見に対し、参加者から意見を求めた。出された主なものは以下のとおりである。
・「教員は現場で育つ」は、かつてゆとりがあった時代だからこそ可能であったが、今日の多忙化と教員のレベルアップは並立が可能なのか。
・「教員は現場で育つ」ばかりでなく、新しい視点、多様性に応じていく力を身につけるという話には共感を覚えるが、教員はどこで育つかは難しい。
・教員養成について大学院卒の養成課程が提起されているが、医師みたいに6年間かけて教員になるだけの魅力が教職員の職場にあるのか疑問に思う、人材不足になるのではないか。
・教員養成課程の4年+αは、現行の初任者研修又は臨時採用教員に近いもので給料も出るが、学級担任もするなど責任を伴うものになると思うが、そしてこれらが定数外として配置されるなら考える価値があるのではないか。
・公立学校の教員はこれまでにも「福祉」の面も担ってきたが、これからは一層厳しい家庭状況の子どもが増えることは間違いない。格差の再生産を少しでも食い止め、教員をつぶさないため、公教育を見直し、教育と福祉が連携していくためのシステムづくりなど今すぐにしなければならない。
・新自由主義など競争主義的な教育は、教育政策そのものを変えない限り難しい。文科省も変えようとしているのか、先般国連の子どもの権利委員会から日本の教育の過度な競争に対して留意するような勧告があったが、このことに対して全く反応がないのは何故か。

  これらの質疑などに対し、パネリストから意見が述べられ、シンポジウムは有意義なもとに終了した。(設定時間の関係で、一般参加者の発言を制約せざるを得なかったことは反省材料として次回にいかしたい。)
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