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活動報告:2009年

経済開発協力機構労働組合諮問会議-報告-
2009-12-01
経済開発協力機構(OECD)労働組合諮問会議(TUAC)教育作業部会

2009年11月17-18日、パリ


1.PISAについて

●発表者:Ms. Laura Figazzolo (EIリサーチ・インスティチュート)

●発表内容『PISA結果の分析および公表に関する代替モデルの提案』

●背景
-EIおよびTUACは、PISAの実施に対し基本的には支持しつつも、その分析と公表のされ方に懸念を抱いていた。
-2008年、PISAが国際的な教育政策議論に及ぼす影響についての研究をEIが実施
-その結果、主に次のことが明らかとなった:
・PISAの結果は、保守派・革新派、また中央政府・労働組合といった、異な る目的をもつ両方の人間に、各々の議論を進めるためのデータを提供した。
・成績順位表という形での結果報告は大きな問題をはらみ、各国のメディアが非常に単純化した報道を行った。
-そういった懸念を受け、2009年、EIリサーチ・インスティチュートは、PISA結果を取り扱う代替モデルを提案するべくPeter Mortimoreに研究を依頼。

●PISAに対する主な批判
-文化的な多様性に対する不十分な考慮
-言語の違い(翻訳の問題、言語によって変化する問題の難易度、母国語でテストを受けられない子どもたちの存在)
-サンプリング(低得点が予測される対象の排除の可能性)
-「主要教科」の強調――過剰に「経済的」なアプローチを教育政策に適用する事を奨励
-(開発および実施過程における)教員参関与の欠如
-横断式の調査デザイン(継時的変化の把握が困難)
-成績順位表によって単純化された結果の公表
-支配および不透明さ

●EI提案事項
-教員の関与。以下の2つの方法が考えられる:
・教員を対象とするグループ・ディスカッションを開催し、テスト項目などの開発においてその声を反映させる。
・テスト実施時、同時に教員を対象とするアンケートも行い、テスト結果の解釈にそのアンケートで得られた情報を活かす。

☆この点と関連し、日本から、テストの開発過程のみでなく、テスト結果データの解釈過程にも、教職員等より現場に近い人間が関わる可能性はないのかと質問。
→PISAが示す結果と学校教育現場の現実との間に乖離がある現状について、いくつかの国が報告。
→PISAに参加する50か国中、国レベルでのPISAの実施運営に関われている教職員組合は2-3に留まる。
→収集されたデータの解釈過程については、大いなる不透明性があるとの指摘。
→解釈の過程そのものに参加できなくとも、解釈の枠組みとなるインジケーターや焦点領域の決定過程に関わることで、データの解釈に間接的に関与できるのではないかとの提案。

-縦断データの収集
-地理やその他の社会科学領域を評価対象教科に含める
-データ集計・表示方法の多様化
・特に、得点順ではなく国名のアルファベット順にデータを表示することで、得点による単純な評価と競争を奨励しない、という態度を示せるのではないか?

・EI提案に対するPISA運営委員会のコメント(2009年11月)
-縦断データの収集
・多大な費用と時間を要する;特に国際レベルで縦断データを収集するのは困難。
・国レベルで縦断データをうまく収集しているところは幾つかあり(カナダ、オーストラリア、デンマーク)、それらを参考にすべき(EI)。
・今後検討
-順位表の割愛
・結局メディアが自作の順位表を作成して報道してしまうので、余計に危険性が高まる可能性。
・ただし、複雑なデータの微妙さをとらえた結果の解釈や、単なる順位表以外の結果表示も必要。
-教員の関与
・次回PISA2012に、オプションとして教員対象のアンケートも含める。
・アンケート作成にどのように組合が関わっていくかが課題(EI)


2.「図表でみる教育」について

●発表者:Mr. Andreas Schleicher (OECD)

●主なポイント(OECDウェブサイトも参照)
-教育、特に大学レベルの教育投資は、個人にも国にも、投資を大きく上回る利益をもたらす。
→経済危機にこそ、教育、特に高等教育に投資すべし。
-大学レベルの高等教育学位取得者数の増大(1998年から2006年にかけて、OECD諸国年平均4.5%の増加率)
-2007年に大学レベルの学位を有する25~34歳の割合は、OECD諸国平均で約3人に一人。カナダ、日本、韓国では、2人に一人の割合。
-OECD諸国の大部分において、義務教育終了年限で学校を離れる人の数が減っているが、ドイツ、日本、メキシコ、ポーランド、トルコ、アメリカでその人数が増えている。
-幼児教育の拡大も、OECD諸国全体で、また中でもスウェーデンにおいて目覚しい。幼児教育を受ける3-4歳の割合が、1998年には40%だったのが2007年には71%までのびた。
-義務教育終了年限で進学も就職もしなかった人は、より長い失業期間を被る。資格や技能をもたず失業状態にある25~34歳の人は、長期失業にあることが大部分の国で見受けられた。
-高校卒業者は、中学卒業者と比べて健康状態が良い傾向があり、大学卒業者は、その他の者と比べて政治的興味が高く、また他者を信頼することができる。
-韓国教育財政モデルの特徴→教員の給料がとても高い代わりに、クラスサイズを大きくすることで、児童生徒一人当たりの教育コストを下げている。

●議論
-教員養成に対する投資の経済的効果を測定する方法をOECDは開発できるのではないか、という指摘。
-世界的な教員不足という問題とも絡めて。


3.TALISについて

●発表者:
-Ms. Birgitte Birkvad (Danish Teacher Trade Unions & EI?)
-Mr. Michael Davidson (co-coordinator of TALIS, OECD)

●TALIS (Teaching and Learning International Survey)概要
-教員の労働環境および児童生徒の学習環境に関する教員視点での国際調査データを比較する、OECDの初の試み。
-2009年6月に報告書公表。
-参加国23、各国約200の中学校がランダム抽出、各サンプル校の校長1名が「校長用質問紙」に回答、また同校よりランダムに抽出された約20名の教員が「教員用質問紙」に回答。
-質問項目領域:研修、信念、態度と実践、評価とフィードバック、学校リーダーシップ
-PISA実施校におけるTALIS実施が、オプションとして提示された。

●主な結果
-不十分な研修
・4割以上の教員が研修が不十分であると回答。特に、学校内の多様性により良く応じるための研修を求める声が大きかった。(EI)
・人によっては自費ででも研修を受けに行っている。しかし、このことが、公的に提供される研修の必要性や正当性を減じるものとして解釈されてはならない。(TUAC)
・教育の改善において研修が重要であることは確かであるが、経費と利益、また需要と供給の適切なバランスを見極めなければならない。(OECD)
-不十分なフィードバック
・教員は、何のガイダンスもフィードバックも周囲から与えられず、孤立に近い環境で働いていることが多い。
・むしろ、革新的な試みに対してマイナスなフィードバックが与えられる、ということが、教員たちの大きな不満の種として挙げられた。(EI)
-教員の評価について
・¾の教員たちが、"効果的"な教員に対して高い評価や認識が与えられないこと、および恒常的に"非効果的(underperforming)"である教員に対する金銭報酬制度の変更が行われないことを報告。(OECD)
・「対業績報酬」(performance pay)と教員の質の向上との間に明確な相関関係は見られず、また給料の良さが新規教員確保にあまり効果的でなかったとする研究もあり、「対業績報酬」の効果は疑わしい。(TUAC)
-教員の信念と実践とのギャップ
・多くの教員が、一人ひとりの児童生徒の個々にニーズに応じた「子ども主導型教育」に信念としては共感しつつも、実際の実践では、従来の「教師主導型」教育方法に依拠していた。

●TALISの今後について
-今回得たデータの更なる分析
・研修だけでなく、教員養成に関するデータの分析
・どのような要因が、教授法などにおける変革を促すか?
-次回のTALIS(2012-2013年に実施予定)に向けて
・タイムライン:
・2010年5月・・費用等詳細情報と共に、参加国の募集
・2010年6月・・調査項目の最終決定
・次回調査項目の決定過程に、教員組合も関与していくべき!
・次回調査項目案(議論)
・教授スタイルと教室内の雰囲気との関係性について
・教員間の協力・協同について(教育にまつわる社会的関係性)
・教員の目から見た「効果的/効率的なティーチング」について
・参照


4.PIAAC(成人能力国際評価プログラム)について

●発表者:Mr. John P. Martin (Director for Employment, Labor, and Social Affair, OECD)

●背景:
-経済や産業のグローバル化、さらなる競争の激化、テクノロジーの進化、労働者の高齢化、などに直面する各国が、市場のニーズに柔軟に対応しうる労働力の確保のため、成人の「能力」に関する調査ツール開発をOECDに依頼。
-それを受けて、OECDが、PIAAC (Programme for the International Assessment of Adult Competencies: 成人能力国際評価プログラム)を開発中。

●PIAAC概要
-目的
・現在蓄積されている人材資本に関する包括的な評価
・実際の仕事場面における技能の活用状況の把握
・職業教育と訓練効果の評価と改善、等。
-重点評価領域:情報コミュニケーション技術リテラシーの6側面
・アクセス(情報や知識へのアクセス能力)
・整理・組織化(情報を分類体系に沿って整理・組織化する力)
・統合(類似や相違の情報と照らし合わせて、得られた情報を解釈、整理、比較等をする力)
・評価(情報の質、関連性、有用性、有効性などについて判断する力)
・構築(情報の適用・応用・デザイン・創造・表象・発表により新たな情報と知識を構築する力)
・コミュニケーション(様々な個人やグループに情報と知識を伝える力)
-参加国毎に、16~65歳の「成人」5000名以上を対象に実施。
-今までの調査と異なり、結果の活用に重きを置いており、そのための分析方法などの決定について、PIAAC委員会はTUACやBIACなどから意見をもらいたいと思っている。
-今後の予定
・2010年4-6月、27カ国の参加を得てフィールド・トライアル実施
・第一回PIAAC実施を2011-2012年頃に予定

●議論
-結果の活用に重きを置いているのは歓迎である。生産性や労働者の満足度を上げるためにも、そのことは重要だと思う。(UK)
-産業政策に関するきちんとした調査をOECDでもっとやるべきではないか。(フランス)
-今後労働者視点と雇用者視点の両方のデータを集めたい。(OECD)


5.VETについて·

●形式:「Learning for Jobs: OECD Policy Review of Vocational Education and Training(仕事につながる学習:職業教育および訓練に関する政策レビュー)」のレポートを概観しながら、Mr. Roland Schneider (TUAC, Senior Policy Adviser) がコメント。

●Learning for Jobs 概要
-2007年にプロジェクト開始
-労働市場が求める技能を備えた労働者を輩出するためのVET(Vocational Education and Training: 職業教育および訓練)プログラム開発を支援
-14カ国のVETをレビュー
-最終報告書は2010年秋発刊予定。

●議論
-カナダ→オーストラリアの国レビューについて懸念。(高い授業料、高い失業率、民間のVETプログラムに公的資金を投資すべしとのOECD提案、VET教員やトレーナーの意見が入り込む余地のないカリキュラム、等)
-スペイン→高い失業率対策として、18歳まで義務教育を延長するという国の施策に懸念。

☆日本→日教組の進める労働教育(労働者の権利、普通職業教育、職業基礎、課題研究、労働を中心とした福祉型社会の実現へ向けて、等)について発表。
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